信夫淳平『上海戦と国際法』より 「便衣隊…現行犯…直ちに殺害」「害敵手段」の意味

『・・・・然るに便衣隊は交戦者たる資格なきものにして害敵手段を行ふのであるから、明かに交戦法規違反である。その現行犯者は突如危害を我に加ふる賊に擬し、正当防衛として直ちに之を殺害し、又は捕へて戦時重罪犯に問ふこと固より妨げない。
 ただ然しながら、彼らは暗中狙撃を事とし、事終るや闇から闇を伝って逃去る者であるから、その現行犯を捕ふることが甚だ六ヶしく、會々捕へて見た者は犯人よりも嫌疑者であるという場合が多い。嫌疑者でも現に銃器弾薬類を携帯して居れば、嫌疑濃厚として之を引致拘禁するに理はあるが、漠然たる嫌疑くらいで之を行い、甚しきは確たる証拠なきに重刑に処するなどは、形勢危殆に直面し激情昂奮の際たるに於て多少は已むなしとして斟酌すべきも、理に於ては穏当でないこと論を俟たない。・・・・』
(信夫淳平『上海戦と国際法』より)

この学説について、歴史学者の吉田裕氏がトンデモ解釈を披露しているので、僭越ながら以下の通り批判させて頂きます。
吉田裕(歴史学者)いわく、
『実際に敵対行為を行う「現行犯者」に対して、「正当防衛」のために反撃する場合を除けば(信夫淳平『上海戦と国際法』丸善、一九三二年)、「便衣兵」の処刑には軍事裁判の手続きが不可欠とされていたのである。』(『南京大虐殺否定論13のウソ』p167)

つまり吉田氏は、便衣兵を現行犯で(つまり軍律裁判抜きで)処刑するには便衣兵が銃口を向けてきた場合等の正当防衛でなければダメだ、と信夫淳平氏が説明していると言っているのである。

虐殺派がセットにしてよく持ち出すのはこれです。

横田喜三郎『国際法』(三)敵対行為
敵対行為は兵力による加害行為である。』

このようにして便衣兵の裁判抜きの処刑を違法殺害と批判します。

便衣兵であろうがなかろうが、兵士に銃口を向けたら即銃殺されるのは当然ですが、そんなことを国際法の権威がわざわざ多言を労して説明しているというのだからお笑いである。

害敵手段
http://kotobank.jp/word/%E5%AE%B3%E6%95%B5%E6%89%8B%E6%AE%B5
『広義には,交戦国が戦争目的達成のため敵に対して行使する暴力的または策略的手段・方法の総称であり,狭義にはその中心を占める兵器を指す。交戦国は原則としてみずから有する害敵手段を総合的に行使しうるが,国際条約や慣習規則による制限には従わなければならない。このことは,1907年〈陸戦ノ法規慣例ニ関スル規則〉(ハーグ陸戦規則)で〈交戦者ハ害敵手段ノ選択ニ付,無制限ノ権利ヲ有スルモノニ非ス〉(22条)として明文化され,……』

吉田氏が「害敵手段」ではなく「敵対行為」と勝手に言葉をすり替えているところも注目ですね。法律用語ですから正確に引用しなければならないのですが、その点、国際法の素人吉田氏のなせる技、といったところでしょう。

信夫淳平氏は、『便衣兵は資格が無いのに「害敵手段」を行うのだから交戦法規違反であり、その現行犯は、突然襲いかかってくる「賊とみなして」「正当防衛として」直ちに殺害して良い』と言っているのだ。「害敵手段」に「敵兵の蔵匿隠避、出入禁止区域への出入」も含まれることは佐藤和男氏が述べている通りである。
※もちろん「害敵手段」の現行犯を指す。

以下、国際法学者の佐藤和男氏の論文から抜粋します。敵兵の蔵匿隠避、出入禁止区域への出入が害敵手段にあたることが述べられています。

戦争犯罪を構成する行為としては、(1)軍隊構成員による一般的交戦法規の違反行為、(2)軍隊構成員ではない個人の武力による敵対行為、 (3)間諜(スパイ)と戦時反逆、(4)剽盗(戦場をうろついて軍隊につきまとい、略奪、窃盗、負傷者の虐待・殺害、死者の所持品の剥奪などをする行為)の四種類に伝統的に大別されてきた。
 右の諸行為のうち、間諜と戦時反逆が特殊な性格を持つものであることは、留意されなければならない。両方の行為はいずれも交戦国が実行する権利を国際法上認められており、しかも相手方の交戦国がその行為者を捕えた場合にこれを処罰する権利もまた認められているのである。
 違法ではない行為が処罰されるのは、一見法理的に矛盾しているが、それらの行為の害敵手段としての有効性とそれに基づく交戦諸国の現実的要求の前に法規が譲歩したものと考えられる。
 前記四種類の戦争犯罪のうち、戦時反逆については多少の解説をしておく必要がある。それは、交戦国の権力下にある占領地、作戦地帯、その他の場所において、当該交戦国に害を与えその敵国を利するために、私人たる敵国国民、中立国国民、または変装した敵国軍人が行う行為を指している。
 この種の有害行為は、敵国軍人が正規の軍服を着用して行う場合には戦時反逆にならないが、民間人に変装して行えば戦時反逆となる。その具体的内容はきわめて多岐にわたるが、 敵側への情報の提供、軍・軍人に対する陰謀、軍用の交通機関・資材の破壊、諸手投による公安の妨害、敵兵の蔵匿隠避、出入禁止区域への出入、強盗なども含まれている。 』
(佐藤和男『南京事件と戦時国際法』 四、"南京事件"関連の重要法規 より)

要約すると、
①間諜(スパイ)と戦時反逆は違法ではないが処罰される。
②この特殊性は害敵手段としての有効性と現実的要求の前の譲歩の結果である。
③戦時反逆は占領地その他の場所において変装した敵国軍人等が行う行為である。
④敵兵の蔵匿隠避、出入禁止区域への出入なども戦時反逆に含まれる。

つまり、中国兵が軍服を脱いで安全区に潜入したのは戦時反逆であり「害敵手段」である、と佐藤和男氏は述べておられます。

『残敵掃討が諸国の軍隊にとってむしろ普通の行動であることを考えると、敗残兵と確認される限り、便衣の潜伏支那兵への攻撃は合法と考えられるが、安全区の存在とその特性を考慮に入れるならば、出入を禁止されている区域である安全区に逃げ込むことは、軍律審判の対象たるに値する戦争犯罪行為(対敵有害行為)を構成すると認められ、安全区内での摘発は現行犯の逮捕に等しく、彼らに正当な捕虜の資格がないことは既に歴然としている。
 兵民分離が厳正に行われた末に、変装した支那兵と確認されれば、死刑に処せられることもやむを得ない。多人数が軍律審判の実施を不可能とし(軍事的必要)― 軍事史研究家の原剛氏は、多数の便衣兵の集団を審判することは「現実として能力的に不可能であった」と認めている―、また市街地における一般住民の眼前での処刑も避ける必要があり、他所での執行が求められる。したがって、問題にされている潜伏敗残兵の摘発・処刑は、違法な虐殺行為ではないと考えられる。 』
(佐藤和男『南京事件と戦時国際法』 五、結論的所見 より)

なお、12月24日以降の「兵民分離査問」について、以下の通り、「日支合同の委員会を構成し日支人立会の上、一人宛審問し又は検査し、委員が合議の上、敗残兵なりや否やを判定し」た。

以下、偕行社「南京戦史」より抜粋

査問の方法は、第十六師団参謀長・中沢三夫氏の『極東裁判における宣誓供述書』によれば、
「日支合同の委員会を構成し日支人立会の上、一人宛審問し又は検査し、委員が合議の上、敗残兵なりや否やを判定し、常民には居住証明書を交付し、敗残兵と認定された者はこれを上海派遣軍司令部に引き渡した」ということであるが、師団副官・宮本四郎氏の遺稿によると、捜査にあたった司令部の大行李長・瀬戸大尉の話として、「ズボンをまくりあげさせ、短ズボンを穿いていた奴は太股に日焼けの横線がある。此奴は兵隊である。……紛らわしいのは逃亡兵の方に入れる。それが逃亡兵でない時は、本人が言い張るばかりでなく、難民区から見に来ている男女中国人が、この男は何町の呉服屋の店員だとか、これは私の妹の子供だと泣きすがって哀願する婆さんが現れたりして、決着がつく」と記している。
また、兵民分離査問に立会した内田義直氏(陸軍省通訳官・第十六師団警備司令部配属)は、その実態を次のように述べている。
「中国人の言葉には地方訛りがある。南京を守備した中国軍は、広東、広西、湖南の兵隊で南方訛りであって、言葉で兵隊と市民の区別は難しかった。しかし、身体つきを見れば兵隊と一般市民とは、直ぐ区別がつく。自治委員会の中国人と一緒に相談しながら分離作業をやったので、一般市民を狩り立てるようなことはなかった。上衣だけが民服で、下着が兵隊服のものが多く、すぐ見分けがついた。」

以上、抜粋終わり
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参考)
便衣兵の「処刑」に裁判は必要だったのか

欧米人も合法だと認識していた便衣兵の処刑

幕府山事件と「審問なき処罰の禁止」について~戦時国際法上合法説

トップへ”南京大虐殺”のまとめ 責任者は蒋介石・唐生智 日本は無罪
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